最高裁判所第一小法廷 昭和50年(あ)731号 決定 1978年6月28日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人らの弁護人山根二郎の上告趣意第一は、原判決に対する具体的論難を含まず、同第二は、原判決の認定しない事実を前提とする憲法三七条、三一条違反の主張及び単なる法令違反、事実誤認の主張であり、同第三のうち、憲法三七条違反をいう点は、弁論の併合は受訴裁判所の裁量に属するものであり、第一審裁判所がとつた本件併合審理に関する措置は相当であるとした原判断は正当であるから、前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であり、同第四は、憲法三七条、三二条、八二条違反をいう点をも含め、実質は、すべて単なる法令違反の主張であり、同第五は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない(なお、所論のうち、司法行政による裁判への支配介入及び予断排除の原則違反があつたとする主張のまつたく理由のないことについては最高裁昭和四八年(あ)第二四六〇号同四九年七月一八日第一小法廷決定・裁判集刑事一九三号一四五頁参照)。
被告人四戸純一の弁護人後藤昌次郎の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、所論引用の各判例は所論のような趣旨の判示をしていないから、前提を欠き、同第二点のうち、憲法三一条、三二条、三七条違反をいう点は、記録によれば、第一審裁判所は被告人四戸純一に対し刑訴法二八六条の二の規定により審理したことがないことは明らかであるから、前提を欠き、その余の点は、単なる法令違反の主張であり、同第三点は、憲法三七条、七六条違反をいう点をも含め、実質は、すべて単なる法令違反の主張であり、同第四点は、判例違反をいう点もあるが、実質は、すべて単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。
なお、所論にかんがみ職権により判断すると、刑訴法三二六条二項は、必ずしも被告人の同条一項の同意の意思が推定されることを根拠にこれを擬制しようというのではなく、被告人が出頭しないでも証拠調を行うことができる場合において被告人及び弁護人又は代理人も出頭しないときは、裁判所は、その同意の有無を確かめるに由なく、訴訟の進行が著しく阻害されるので、これを防止するため、被告人の真意のいかんにかかわらず、特にその同意があつたものとみなす趣旨に出た規定と解すべきであり、同法三四一条が、被告人において秩序維持のため退廷させられたときには、被告人自らの責において反対尋問権を喪失し(最高裁昭和二七年(あ)第四八一二号同二九年二月二五日第一小法廷判決・刑集八巻二号一八九頁参照)、この場合、被告人不在のまま当然判決の前提となるべき証拠調を含む審理を追行することができるとして、公判手続の円滑な進行を図ろうとしている法意を勘案すると、同法三二六条二項は、被告人が秩序維持のため退廷を命ぜられ同法三四一条により審理を進める場合においても適用されると解すべできある。そうすると、第一審裁判所が本件において所論各書証を証拠として採用した措置に違法はないとした原判断は、結論において相当である。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(本山亨 岸盛一 岸上康夫 藤崎萬里)
弁護人山根二郎の上告趣意<省略>
弁護人後藤昌次郎の上告趣意<省略>